| これまでどちらかというと「機械と人間」の境界を描き続けてきた著者が、それに加え新たに「月人(カミス人)と地球人(リンボス人)」「男と女」そして「姉と弟」の境界線へときわめて神林SF的にアプローチを試みたのが本作での見どころではないだろうか。 理論士イシスは、詩人である弟のアシリスとの恋を成就させるため、事象制御装置を使い、地球(リンボス)でそのシミュレーションを行う。 果たして「姉と弟」の恋愛は成立しうるのか、というテーマはしかし、すぐにアシリスの「自分は姉であるイシスを愛しているのか、それともイシスが姉でなくとも彼女を愛しただろうか」という疑問に取って代わられてしまう。 アシリスの思索の旅が始まる。 個人的には著者の作品は大別して「酔っぱらったような脳天気なハイなもの」と「ひたすら悩み続ける病的に鬱なもの」にわけられると勝手に思っているのだが、本著は典型的な後者の例。 敵は海賊シリーズに観られるような派手なアクションシーンもない。 しかし、あの神林長平がきわめてSF的アプローチで恋愛を描いた、という一点においてエポックメイキングな作品に仕上がっている。 |